戸籍の性と名を変えずに公的身分証明書の性別と名前を変更する方法

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戸籍の性と名を変えずに、公的身分証明書の性別と名前を変更する方法があります。いくつかある公的身分証明書の中でも、健康保険証は戸籍を変えずに性別と名前の表記を変更できるんです!戸籍の性や名の変更は要件が厳しくかなり大変ですが、保険証の男女表記の配慮や通称名の記載については要件も手続きも比較的楽ですよ。

保険証は戸籍を変えなくても性別と名前の表記変更できる!

健康保険証は戸籍を変えなくても性別と名前の表記変更できるんです!表面に性別が明記されていなく、通称名が記載された保険証を作れます。

ただし、組織によってはまだ対応できていないところもあるようなので、変更を希望している方はお住まいの市区町村や勤め先の保険組合などに確認をしてくださいね。

本来は身分証の性別と名前は戸籍と一致

一般的に主な公的身分証明書は、運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証などがあります。基本的にどの身分証明書も、性別や名前の表記は戸籍に記載されたものがそのまま反映されます。

運転免許証やマイナンバーカードの性別表記と名前表記を変えるには、戸籍の性と名を変更することが必須。でも、保険証は条件を満たして手続きをすれば、戸籍が変わっていなくても性別も名前も表記変更OKとされています。

登録データ自体は変わらず券面表記だけ変わる

誤解のないようにお伝えすると、行政機関などに登録されているご自身の性別や名前のデータ自体が、望む性別や名前に書き換えられるのではありません。あくまでお手元にある券面の性別欄と名前欄の表記を変更できるということです。

登録されているデータ自体を変えるには、戸籍の変更が必要です。繰り返しになりますが、変わるのは保険証の券面の表記のみです。お間違えのないように。

では、保険証の券面の性別と名前の表記がどのように変更できるのか、手続きはどうしたらいいのかを確認してみましょう。

保険証の性別と名前は変更したらどう記載されるの?

健康保険証の性別と名前を変更したら、券面にはどのように記載されるのでしょうか?国民健康保険を例に、性別の表記と名前の表記についてご案内します。

保険証の性別表記はこうなる!

保険証の表面にある性別記載欄に「裏面参照」と記載され、裏面に「戸籍上の性別は男」もしくは「戸籍上の性別は女」と記載されます。

つまり、保険証の表面に男性もしくは女性という記載がなくなります。もっとも、裏面に戸籍上の性別が書いてあるので裏返して見ればすぐわかってしまうのではありますが…、少なくとも表面には性別が明示されません。

札幌市○○区の国民健康保険証。表面、こんな感じになるよ

裏面、こんな感じになるよ(上:戸籍女性の場合、下:戸籍男性の場合)

戸籍の性別を変えるには手続きや要件のハードルかなり高いので、トランスジェンダーとして生活をしていても戸籍の性別は変更していない(変更できない)という方も多いはず。そのような方々にとって、ありがたい施策ではないでしょうか。

のちほど詳細を記しますが、性別記載の変更に関して、なんと性別違和(性同一性障害)の診断書の有無は必須条件ではありません(記載変更が認められるか否かは別として)。

トランスジェンダーの方はもちろん、Xジェンダーの方やノンバイナリーの方など、戸籍上の性別と性自認が異なる方や曖昧な方、わからない方のほか、性別の区別自体そのものに疑問を感じる方なども変更できる可能性があります。

保険証の名前表記はこうなる

保険証の表面にある氏名記載欄には通称名が記され、裏面に「戸籍上の氏名は○○○○」と本名が記載されます。

表面に本名の記載がないんです!通称名が記載された公的身分証明書を発行することができるんです!
※注:組織により表面に戸籍名と通称名を併記される場合もあります。必ず担当窓口に確認してください。

もっともこちらも性別同様、ひっくり返して裏面を見れば本名がバレちゃいますけど…。

とはいえ、本名が男性名もしくは女性名で抵抗がある方など、通称名が表面に印字された身分証明書が欲しい方にとっては非常に嬉しい話ではないでしょうか。

保険証の性別と名前の表記を変える方法と必要なもの

保険証の性別と名前の表記を変える方法についてと、必要なものや条件について確認しましょう。

国民健康保険証の場合、性別表記の変更や通称名の記載手続きは、変更を希望する方の住民票がある市区町村役場の保険窓口に行って行います。特段問題もなく認められれば、近日中に新たな保険証が発行されますよ(発行タイミングは組織により異なります)。

保険証の性別表記の変更手続き

保険証の性別表記の変更手続きで必要とされているものは以下3点です。

  1. 届出人が本人と確認できるもの(運転免許証、パスポート、個人番号カード、障害者手帳、在留カードなど)
  2. 変更を希望する方の個人番号がわかるもの(個人番号カード、番号通知カードなど)
  3. 保険証

性別記載の変更に関して、性別違和(性同一性障害)の診断書は特段いらないのです。性別を変更して記載するのではなく、あくまで裏面に記載をするというだけなので、要件が比較的緩いのだと思われます。
ただ、必要なものを持っていくだけで「はい、OK、変更します」とはならないでしょう。そもそも性別表記を変更する手続きの主旨は、「心と身体の性が一致しないなど、やむを得ない理由があると判断できる場合には、性別表記に関して配慮を行う」ということです。

なぜ表面に性別を明記してほしくないのか。これを明確に担当者に伝える必要があります。

そう考えると、いくら要件外とはいえ、性別違和(性同一性障害)の診断書があるに越したことありません。診断書がある方は持参しましょう。

診断書がない方は、戸籍の性別と異なる性別で生活していることなどがわかるもの(証明できるもの)などを揃えることを検討しましょう。

保険証の名前表記の変更手続き

保険証の性別表記の変更手続きで必要とされているものは以下5点です。性別表記の変更よりも必要物が2つ多くなります。

  1. 届出人が本人と確認できるもの(運転免許証、パスポート、個人番号カード、障害者手帳、在留カードなど)
  2. 変更を希望する方の個人番号がわかるもの(個人番号カード、番号通知カードなど)
  3. 保険証
  4. 性同一性障害を有することを確認できる書類(医師の診断書等)
  5. 通称名が日常的に用いられていることを確認できる書類

通称名の記載に関しては、性別違和(性同一性障害)であることが必須要件とされています。そのため、診断書など公に確認できる書類とともに、日常的に通称名を使用していることを証明できるものが必要になります。

日常的に通称名を証明できるものの一例としては以下などがあります。

  • 勤務先や学校などが発行する身分証明書
  • 通称名で受領している郵便物
  • 公共料金の請求書

通称名でやっているSNSのアカウントを提示、とかでは恐らくダメ。自分が通称名を発している(表示している)だけではなく、第三者から通称名が認識されている必要があるということです。

手続きに必要なものとしては戸籍の名を変更する時とさほど変わりませんが、戸籍の名の変更をする時よりは手続きは楽。
窓口に行って必要書類を提示し、性同一性障害で日常的に通称名を使用していることがすんなり認められれば、その場で変更OKの返事をいただけます(後日返答・回答というところもあるかもしれません)。

新しい保険証が手元に届くタイミング

新しい保険証が手元に届くタイミングは、保険証の発行元により差異があるので一概には言えませんが、変更依頼をしたのちそれほど日時がかからず手元に届きます。

発行元により異なる可能性はありますが、年1回の更新時の際はこんな流れです。

各世帯へ一斉に新しい保険証を送る都合からか、戸籍名で発行された保険証が送られてきます。その後、希望の性別表記や名前が記載された保険証が発行されます。

新たに発行された際、各自で窓口に行って差し替えるケースと、返信用封筒付きで変更された保険証が送られてきて、戸籍名で発行された保険証を返信用封筒で返送するというケースもあります。

なぜ性別の裏面記載や通称名表記ができるようになった?

なぜ保険証の性別を裏面に記載したり、通称名を記載したりできるようになったのでしょうか?
理由は、厚生労働省から都道府県や医療保険者に対し、性別表記の配慮と通称名の記載に関して保険証にて反映するよう通知がなされているからです。

厚生労働省の通知

性別記載に関しては、2012年に島根県松江市からの照会に対し、国民健康保険証の性別の表記方法の見直しをする旨の通知がありました。
国民健康保険被保険者証の性別表記について(厚生労働省)

氏名表記に関しては、2017年に各都道府県あてに通称名表記に関する取扱いの通知がなされています。
被保険者証の氏名表記について(厚生労働省)

性別違和を感じる方への配慮と実用性・実効性

トランスジェンダーなど性別違和(性同一性障害)を感じる方が本人確認書類を提示する際、戸籍上の性別や名前がぱっと見で伝わってしまうことに抵抗を感じる方は多いと思います。
とはいえ公的な身分証明書に戸籍上の性別や名前が載っていないと、本人確認書類の意味をなしませんし、例えば緊急手術が必要になった場面などでは性別や名前が判別できないと病院などが困ります。

今現状の日本において、性別違和を感じる当事者へ配慮を図るとともに、実用性と実効性を考慮した現実的な対応策だと言えるでしょう。

保険証がなくなるかも!?

昨今、マイナンバーカードと保険証を一体化して将来的に保険証をなくす、ということが検討されているようです。
もしも保険証がなくなったら、戸籍を変えることなく性別表記や通称名表記を変更できる貴重な公的身分証明書がなくなってしまいます。
当事者にとってはかなり気がかりな動向です。

どの保険証も変更できるの?

保険証の種類は、大きく「国民健康保険(国保)」と「社会保険(企業の組合保険や協会けんぽ、公務員向けの共済組合)」、「後期高齢者医療制度」の3つあります。

具体的な手続き方法や対応方針については市区町村や各保険組合などによって差異はあると思われるので、一概に「どの保険証も変更できる」とここで断言はできません。

少なくとも、厚生労働省からは対処するよう通知がなされています。各組織と担当者がどのように理解し受け止めているか次第かもしれません。

市区町村では数多くの組織にて、性別表記と氏名表記に関する案内がホームページに掲載されています。

保険証の性別表記・氏名表記について(札幌市)

国民健康保険被保険者証等の氏名及び性別表記について(大阪市)

国民健康保険被保険者証への氏名・性別の表記について(岐阜県)

企業の組合保険でも、以下のようにしっかりとホームページ上に明示して公表しているところもあります。

保険証等の性別・氏名の記載内容を変更するとき(ANAグループ健康保険組合)

戸籍の性別と名前を変えるより保険証の表記変更は断然楽!

戸籍を変更するには家庭裁判所の許可が必要ですし、日本の性別変更に関しては生殖腺をなくす外科手術が必須なので、かなりハードルが高いです。いっぽう保険証の記載変更に関しては、戸籍を変更することに比べれば断然楽です。
公的身分証明書に記載されている性別や名前に疑問や不満がある方、変更手続きを進めてみてはいかがですか?

※こちらで記載した内容は、性別や名前を必ず変更できることを保証しているわけではありません。万が一不利益等が発生しても責任は負いません。変更をご希望の方は、必ずご自身が関係する行政機関や保険組合などへご自身で情報を確認してください。

トランスX交流会 vol.1【札幌】|性別違和を感じる方のイベント
トランスジェンダー(FtM/MtF)やXジェンダー(FtX/MtX)など、生まれた身体の性別に違和感のある方がメインのLGBTQ+交流イベントです。第1回目は札幌市中央区内で、さっぽろレインボープライド2022の関連イベントとして2022年9月4日に開催します。
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